第1回 京都市財政現状と経過
平岡和久(立命館大学教授(地方財政論))

はじめに

 京都市は2021年6月に行財政改革計画案を公表し、財政収支の悪化による危機的状況に対して2021年度から5年間の計画期間における行財政改革の計画案を示しました。しかし、この計画案には看過できない重大な問題点を孕んでいます。本稿では、行財政改革計画案を検討するとともに、その問題点を指摘するとともに、それに代わる財政危機克服の方向性を考えます。

1.京都市財政の現状とこれまでの経過

(1)京都市財政の現状

 日本の自治体財政は、自治体財政健全化法や地方債ルールなどにより財政悪化への早期のチェックと対応がとられることから破綻することはないとされています。自治体財政健全化法においては4つの健全化判断比率が適用され、早期健全化基準以上となれば財政健全化計画を策定することが求められます。また、4つの健全化判断比率のうち実質赤字比率、連結実質赤字比率および実質公債費比率のいずれかが財政再生基準以上になれば財政再生計画の策定が求められ、国による厳しい財政統制が行われます。

 京都市の2019年度(令和元年度)決算における健全化判断比率については、実質赤字比率が数値なし(黒字)、連結実質赤字比率も数値なし(黒字)、実質公債費比率が10.4%(早期健全化基準25%、財政再生基準35%)、将来負担比率が191.1%(早期健全化基準400%)となっており、4つの健全化判断比率のいずれも問題ないように見えます。

 しかし、現在、京都市が財政危機に直面しているのは、数年後に実質赤字比率が早期健全化基準以上になり、さらには財政再生基準以上になることが予測されているからです。

 実質赤字比率とは、決算における標準財政規模に対する実質赤字の比率を指します。決算において実質収支の赤字を避けるには、基本的には毎年度の歳入に範囲内に歳出を抑制しなければなりません。しかし、京都市財政は慢性的に財源不足の状況にあり、家計で言えば普通預金にあたる財政調整基金がほとんどないことから、毎年度、特別な財源対策をおこなわなければ実質赤字に陥る状況が続いているのです。最近の特別な財源対策の状況は表1(クリックすれば別枠で表示されます)のとおりです。特別な財源対策は、主に行革推進債の発行と公債償還基金の取崩しによって財源不足を穴埋めするというものです。しかし、こうした特別な財源対策はいずれ限界に達します。公債償還基金は市場公募債を償還するための基金です。京都市の2019年度末(令和元年度末)における公債償還基金残高は1372億円となっていますが、京都市の積立ルールにもとづき本来積み立てておかなければならない額は1895億円であり、すでに計画外で523億円を取り崩していることになります(正確には一般会計等への貸付を含む)。さらに2020年度予算で119億円、2021年度予算で181億円の取崩しを計上しており、このままの状況が続けば、いずれ公債償還基金が底をつき、一般会計の財源不足を埋めることができなくなります。また、行革推進債は行政改革の取り組みによって将来の財政負担の軽減が認められる範囲内において発行が認められる地方債であり、元利償還には交付税措置がありませんので、100%一般財源を充てなければなりません。行革推進債への依存は限界があるだけでなく、財源不足をカバーするために過度な職員削減などの行政改革につながる危険性があることに注意が必要です。

 以上のような財政危機を慢性的財政危機と呼ぶことができます。京都市財政においては、歳入と歳出のバランスが崩れており、財源不足が毎年度生じる構造になっていることから、その対策は、歳入を増やすか歳出を抑制するか、またはその両方の対策を取るしかありません。

(2)これまでの財政危機

 京都市は1995年度から継続的に3年間から5年間の期間を区切った行財政改革を進めてきました。2001年10月には財政非常事態宣言も出しました。その時には2002年度予算において580億円もの財源不足が生じるとし、人件費の削減(定数削減、給与カット)、公営企業会計への任意の繰出金の休止、各種イベントの見直し、および新規の施設建設の凍結を行いました。

 しかし、慢性的な財源不足状態は解消せず、門川市長就任後の2008年7月には「京都未来まちづくりプラン(骨子)」を公表し、そのなかで、このままでは2011年度までの3年間で964億円の財源不足が生じ、実質赤字比率が財政再生基準を超過すると試算しました。

 また、自治体財政健全化法の施行に伴い、公営企業等の赤字(資金不足)を一般会計等と連結する連結実質赤字比率が基準を超えた場合に財政再生団体に指定されるおそれが出てきました。特に問題だったのが地下鉄事業の赤字でした。京都市交通局は、このままでは2014年度には地下鉄事業の不良債務が522億円となり、連結実質赤字比率は早期健全化基準(16.25%)を上回り、2018年度には地下鉄事業の不良債務が944億円となり、連結実質赤字比率が財政再生基準(30%)を上回るという試算を行いました。

 京都市の財政危機への認識と対策において最も問題なのは、このままでは財政再生団体転落になるという危機的状況を訴えているにも関わらず、市長のマニフェストの実現を中心とした政策推進プラン(総事業費3100億円)を盛り込むなど、緊急事態への対応の枠組みになっていない点でした。今次の財政危機への認識と対策においても過去の対応と同じような問題があります。

 また、地下鉄事業が自治体財政健全化法における資金不足比率が経営健全化基準以上となったことから、京都市は地下鉄事業の経営健全化計画の策定を義務づけられました。京都市は、地下鉄事業の経営健全化計画においてなお不良債務が増大する見通しであったことから、一般会計において市債(経営健全化出資債)を発行してまかなった財源によって地下鉄事業会計への財政支援を行いました。市によれば、一般会計における経営健全化出資債発行は2017年度までの累計で967億円にのぼります。この市債には交付税措置がないことから市の一般会計において元利償還を行わなければなりません。

 地下鉄事業は経営健全化策によって2017年度で経営健全化団体から脱することができましたが、一般会計の市債負担はその後の市財政への負担として長期的に影響することになったのです。