京都市の仁和寺前ホテル建設計画において、株式会社共立メンテナンス(本社東京都。以下、「共立メンテナンス」といいます)が事業者に選定されています。
私は、大阪府守口市が、共立メンテナンスに民間委託した学童保育において、労働組合の4役全員をはじめとする13人の指導員を雇止めした事件で、大阪府労働委員会と大阪地裁で、雇止めの無効を主張してたたかっている事件の弁護団を務めています。
守口市の事件で明らかになった共立メンテナンスという会社の問題点の一部を紹介します。
「守口市の事件はホテル事業部ではないから大丈夫」なのか?
共立メンテナンスは、京都市に対し、「守口市の事案は、別事業で起こったものであり、ホテル事業においては係争事件はない。従業員の環境と雇用関係を含めて十分に配慮しながら問題が起こらないように進めていく」と説明しているようです。
確かに、共立メンテナンスの主要業務はドーミーインなどのホテル事業であり、守口市における学童保育指導員の雇止めは、PKP(Public Kyoritsu Partnership=官民連携、自治体向け業務委託)事業部で起きています。しかし、守口市における出来事は、共立メンテナンスという会社の、コンプライアンス無視の体質が露わになったものであり、ホテル事業であるから起こらないなどということはありません。むしろ、守口市で起こったことが京都市でも繰り返されようとしているように見えます。
労働委員会を無視する態度!
共立メンテナンスは、労働組合からの団体交渉申入れを拒否し、大阪府労働委員会に不当労働行為の救済命令を申立てられましたが、この手続には本社の総務部長ほかが第1回期日に出頭したのみで、以降は全部欠席しています。共立メンテナンスは、組合が労働組合法に適合するかどうか資格審査を先行することに固執。労働委員会が資格審査は、命令発令時までに行うので、先ず申立書に対する実質答弁をするように促すも、ひたすら、「資格審査をしないと実質答弁しない」と繰り返し、2回目以降は、共立メンテナンスの予定を聞いて期日を設定しているのに、欠席する有様でした。おまけに、組合4役のほか13人の指導員を雇止めした後、労働委員会に対し、「委員長を雇止めしたので、当事者適格がなくなった」などというとんでもない書面を提出するなど、労働組合法に基づく救済機関である労働委員会の存在を無視する姿勢が明らかでした。
実は、共立メンテナンスは、労働委員会に申立をされるのはこれが初めてではありません。守口市から学童保育を民間委託される前には、東大阪市でも学童保育を受託し、そこでも組合からの団交申入れに対し、人数制限をするなど不誠実な対応に終始したことが不当労働行為であるとして救済命令を申立てられ、労働委員会で和解したことがあるのです。にもかかわらず、共立メンテナンスは舌の根も乾かぬうちに不当労働行為を繰り返しており、法令を遵守する意識に著しく欠けている会社であることは明らかです。
会社の相談窓口にパワハラの相談をした結果驚くべき事態に!
ある指導員は、業務時間外に、指導員の自主的研修である「ブロック会議」に参加したところ、共立メンテナンスのアドバイザー(元警察官)から、「処分の対象となる」と警告を受けました。指導員は、本社の相談窓口に通報し、「相談したことを、支店・営業所には知らせないでほしい」と懇願しました。ところが、担当者は支店に報告。後日、支店長から「営業所に一人で来るように」呼び出しを受けました。泣きながら同僚の同行許可を求める指導員に対し、支店長は、「業務命令です。一人で来なさい」と命令。そこで、指導員は、労働組合に加入しました。ところが、共立メンテナンスは、この指導員を「会社の指導を威圧的に吹聴し、他団体と一緒になり抗議を起こしている」として雇止めしたのです。パワハラを本社相談窓口に相談したことが上司に筒抜けになり、さらにパワハラを受け、組合に加入するとそのことを理由に雇止め(解雇)されるという信じがたい事態が起きたのです。本当に東証一部上場なのかと疑いたくなります。ちなみに、共立メンテナンスは、雇止めに先行する団交拒否について、2021年4月26日、中央労働委員会から、不当労働行為の救済命令を出されていますが(京都市をはじめとする自治体から指名停止処分を受けた)、同年6月25日に提出された有価証券報告書において、「当社グループには労働組合は結成されておりませんが、労使関係は円満に推移しております。」「訴訟 該当事項はありません」ととんでもない虚偽記載をしています。
偽装工作への加担を強要
民間委託によって現場には大きな混乱が生じ、守口市時代には定期的に発行していた「クラブ便り」も、作成時間が取れず発行が遅れていました。共立メンテナンスも発行が遅れている事情を把握したので注意もされていませんでした。ところが、市民からの情報公開請求を契機に、守口市から「クラブ便り」の提出を求められてあわてた共立メンテナンスは、遅れている「クラブ便り」を1週間以内に作成するように指示。ある指導員は「無理です」と拒否したところ、所長は「出してもらわないと困る」、「保護者に配るかどうかは任せるので」と言って、守口市に対する偽装報告に加担させるような指示をしました。京都市の場合にも、共立から真実の報告がされるのか心配です。
「顧客第一を会社の心とする」?
共立メンテナンスにとって、直接の契約関係にあるのは守口市です。学童保育の実施主体は守口市であって、利用者である児童や保護者は、直接の契約関係にはありません。同社は「顧客第一を会社の心とする」ことを経営理念としていますが、そこで言う「顧客」は守口市です。「顧客」でもないのに学童保育の「質の向上」を主張する者は共立にとって目障りな存在で、労働組合だけでなく、保護者会、学保協(学童保育連絡協議会)などもクレーマー扱いです。自分の「顧客」にしか関心がなく、コンプライアンスを語る資格のない共立メンテナンスに、閑静な住環境や古都の景観を守ることができるでしょうか。守口市の出来事を他人事にすることはできません。
有識者会議報告に見る既視感
上質宿泊施設候補選定の有識者会議は、「周辺住民に対して説明と意見調整を粘り強く重ねてきたこれまでの努力と,上質宿泊施設候補の選定後も説明を続け,意見を聴き,地域貢献に取り組んでいくと宣言した姿勢は,評価できる。」、「京都,御室仁和寺門前に固有の伝統と文化を理解し,その門前に立地することをよく理解した上で,地域の伝統的特質の継承を目指す姿勢は上質な宿泊施設として期待できる。」と共立メンテナンスを高く評価しています。
この報告書の記載には、どこかでお目にかかった既視感があります。
守口市の事業者決定における「プロポーザル(公募型企画競争方式)」において、共立メンテナンスは、「現在の業務に従事されている支援員の皆様で弊社への転籍をご希望いただける方々は全員受け入れをさせていただきます」「現在の支援員の皆様には安心して転籍いただけるように」と現給保障を打ち出しました。
そして、これらの共立のプレゼンテーションを受けて、プロポーザル選定委員会は、「現支援員の雇用については、保護者や児童の安心確保のためにも転籍希望者の受け入れや処遇に係る具体的な提案がなされており、かつ収支計画においてその提案が裏付けられていることは高く評価できる」として共立メンテナンスに優先交渉権を与えたのです。
守口市は、共立メンテナンスとの業務委託契約締結にあたり、プロポーザルで示された共立メンテナンスの方針を「特記仕様書」として追加し、「現在、市が運営する入会児童室(注:学童保育のこと)に従事する指導パートナー等のうち、民間委託後も引き続き従事しようとする転籍希望者は必ず雇用すると事業者に示した決定方針については誠実に履行すること」という内容を盛り込んでいるのです。ここまで書かれたのは、学童保育の民間委託に先立ち、市民に対し、パブリックコメントを募集しているのですが、大半が民間委託に反対し、「現在の指導員をそのままにしてほしい」という声が多数寄せられたことから、共立メンテナンスとしては、契約獲得のために、その市民の要求をプレゼンテーションに取り込んで打ち出しているのです。共立メンテナンスはホテル事業を中核とする会社であり、見栄え良く見せるプレゼン能力には長けています。
共立メンテナンスは、ここまで言いながら、指導員の雇用をたった1年で打ち切ってしまいました。「転籍希望者は必ず雇用するとは言ったが、ずっと雇用するとは言っていない」として掌返しするような会社に優先交渉権を与えてしまったプロポーザル選定委員会の目は節穴だったのでしょうか。有識者委員会も同じ過ちを犯していないでしょうか。
共立メンテナンスは、地元の雇用創出もうたっているようです。守口市では50年以上公営で続く市民の宝である学童保育を民間委託し、長い人で30年以上の経験を有する指導員を物のように雇止めしました。
大丈夫ですか、こんな会社にまかせても。