地域住民の暮らしを日々支え、そのことによって地域から支えられている様々な中小業者によって地域社会は成り立っています。コロナ禍で飲食業をはじめとした中小業者は、国からのまともな支援策もなく、様々な規制と制約の中で存続さえ危うくなる危機的な状況となっています。
そのような中で、地域の中小業者の青年たちが、お互いの絆と連帯を強め懸命に経営努力をしています。 今回は中京区の民主商工会青年部の皆さんの創意あふれる取り組みを、中京民商事務局長の山元歩美さんにレポートしてもらいました。
中京民商青年部について
民商(民主商工会)は、いろいろな業種の中小業者(小法人・個人事業主・フリーランス)が集まって、営業や暮らしに関わる問題を皆で学び合い教え合いながら解決していこうという団体です。中京民商には約300人の会員がいます。業種も飲食店、クリーニング、床屋さんなどさまざまです。その中で、40歳未満の会員を青年部として組織しています。このコロナ禍での給付金や補助金の申請相談がきっかけで入会した方が多いのも特徴的で、この間の取り組みを通じて17人の青年部となりました。
「おこしやすチケット」
中京民商の青年部はコロナ禍に突入する前に一度崩壊してしまいました。原因は単純な話です。経営難とそれに追い打ちをかける高齢化が重なり、40歳未満の会員がいなくなってしまったのです。一昔前は会員さんのお子さんが事業を継ぐのは当たり前で、自動的に青年部に入ってそのまま民商の進める業者運動に、というようなケースが王道だったのでしょう。しかし、中京区に青年業者はいるのか?と思うほどお目にかかることはありませんでした。
私たちは新型コロナウイルスの感染が一気に拡大する中で、様々な給付金、補助金等の情報や申請手続きの案内情報をtwitterやブログなどのSNSで発信し、インスタグラム(画像が中心のSNS)を利用して地域で商売を続けている会員の姿を紹介することを重視して取り組みを始めました。もちろん、紙媒体のチラシも積極的に配布した結果、2020年の4月以降8月までの期間に50人以上の入会があり、その一割強は40歳未満の若い事業者でした。
「中京区にも若い人いたんだ」と胸をなでおろすとともに大きな励ましをうけました。若い人達は、スマホやパソコンを利用し自分で情報を集めて問題を解決しようとします。それでも解決の糸口が見つからず行き詰まったり、どうしようもなくなって相談に来たようです。
コロナ禍の経営相談で激増した青年部員ですが、実はなかなか、青年部としての集まりが持てず、お互いの顔を知らないまま所属しているのが現状です。そこが今とても残念なところであり、これからの課題です。青年部特有の「部会」と称しての飲み会がコロナ禍で行えなくなったことは大きいと思います。
そんな中、中京民商青年部が人数的には復活したので、「何かやろう」ということになりました。企画案が出たのはちょうど悪名高い「GO to EAT」が行われている時でした。キャンペーンの金券を取り扱えるように登録した飲食店の会員さんは、店で使ってもらっても換金するまでに2~3ヵ月と大変な時間がかかるということで、一言でいうと「ありえない」と憤慨していました。飲食店に限ったことではないですが、その日の売上を握りしめて次の日に仕入れに行きます。「GO to EAT」の金券で仕入れできたらよいけどお金に代わるのがずっと先だなんて「死ねというのか!」とまで言っていました。「だったら、青年部は事務所で即換金できる金券をつくろう」と盛り上がり、即実行にうつしました。
実施するまでの道のり
最初は、青年部企画なので、中京民商の青年部員全員に参加してもらいたかったのですが、業種や拠点の関係で上手くはいきませんでした。この企画が青年部で具体的に話し合われるずっと前から、中京民商では独自の金券を作って地域おこしをしようという企画がありました。その流れもあって、地域内でお金が循環する金券を作ってみたいという案はすんなり通りました。「中京民商の青年部という小規模な組織がやるのだから、色々試しながらやってみたら良いのでは」と実験的な取組みとして中京民商の役員さんからも応援されてきました。
最も大変だったのは金券を利用できる店として登録してもらう取扱店の確保です。基本的には青年部員、そして比較的若手の会員(50代くらいまで)、若手の地域の業者という順に参加を呼び掛けていきました。青年部長は木屋町でスナックを経営しています。部長はスナックだけではなかなか経営が成り立たず、朝はパン屋でバイトをしているという強者です。パン屋とスナックの合間の時間や緊急事態宣言の期間を利用して青年部の活動に邁進してくれていました。友人から譲り受けた格好のよい自転車でスイスイと中京区内の気になる対象業者を訪問し声をかけ続けました。最終的には、緊急事態宣言が出されたり解除されたりと先の見通しの立たない状況が続くなかでも「イイですね!」と前向きに参加してくれた会員や業者さんが18件集まりました。
この「おこしやすチケット」は6,000円分の金券を5,000円で購入でき、登録している18の取扱店で商品と交換することができるという金券です。チケットは中京民商の事務所と一部の取扱店で販売しています。2021年7月10日から発売を開始して売り切れ次第終了、利用は2021年12月10日までです。お釣りは出ません。お客さんはもちろん1回しか使えません。しかし、取扱店の事業主はその金券を他の取扱店で2次利用してもよいということにしています。取扱店になってくれた業者間でも利用し合って、金券をぐるぐる回して循環、交流してほしいという思いがあったからです。ハッキリ言って、儲かりません。プレミア分は青年部費で賄っています。取扱店も会員なら無料ですが、会員でない方は登録料として3,000円を頂いています。
商工新聞(民商の全国組織「全商連」が発行している新聞)の読者で会員ではない、ある飲食店の取扱店は「みなさんの運動で協力金をもらえている。ぜひ参加させてください」と積極的にチケットを売ってくれています。ぜひ会員になってもらいたいものです。
これからの取り組み
「おこしやすチケット」が利用できるお店は飲食店ばかりではなく、惣菜屋、洋服屋、古書店、着物クリーニングなど様々ですが、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の影響でどんな業種にも深刻な影響が出ています。売上が昨年の半分以下にならないと申請できない給付金は要件が厳しすぎて申請できない会員も多くいます。そんな中、仲間どうし助け合っていこうと提案された「おこしやすチケット」は中京民商の青年部という小さい組織が集め寄った部費で挑戦した取り組みです。この取り組みが実際に動くまで様々な問題はありましたが、「やってよかった」という声をたくさん聴くことができたら、今度は中京民商全体で取り組みたいという提案をするつもりです。「民商ってこんなことやるんだ」って驚いてくれたり、チケットを自分の店で販売しておいて「そこの店開いてるから、次あそこ使ってあげて」と他の参加店を紹介してくれる方もいます。
ある参加店の会員さんは、「この前チケットをうちの店で使ってくれたお客さん、参加店になってる○○さんが勧めてくれたようです。今度は私もチケット持って○○さんの店に顔出そうかなと思っています」と話してくれました。参加店どうしが交流を持てて、金券をぐるぐる回してもらいたかったので良かったなと思っています。
利用期間は12月までありますが、改善点なども見えてきました。今後は、実際に利用した方々の意見を聞き取り、次に大々的に中京民商で取り組むときに活かしたいと思います。