更新!人口減少も経済停滞も防ぎえない
食いつぶし型規制緩和を問う
中林浩(都市計画家)

 2016年から2019年くらいまではオーバーツーリズムの嵐で、京都市域はゆれていました。にもかかわらず、京都市は宿泊施設の総量規制にはふみきらず小学校跡地をホテルにし、仁和寺前の世界遺産のバッファゾーンにホテルを建てようとしてきました。その後も京都壊しの大問題が雨後の竹の子のように発生しています。それらの特徴は異常な特例による開発の許可です。

 さらに次は、京都市は「駅周辺等にふさわしい都市機能検討委員会」からの答申を2022年9月6日に受け、「「みんなが暮らしやすい魅力と活力のあるまち」の実現に向けた都市計画の見直し」に関するパブコメを行いました。人口減少と若者流出を食い止めるのだとして、市域南部の規制緩和を大幅に図ろうとする提案で、2007年の新景観政策が京都市の発展の壁となっているという宣伝をし始めました。

 しかし、まず結論からもうしあげておきます。この規制緩和は荒れた土地利用を生みだすだけでなく、経済の衰退すら招きかねません。このパブコメで示しているような絵、いっけん都市的な魅力がありそうな景観も実現しないでしょう。

■あらためて新景観政策の意義

 まず、2004年の景観法の成立を受けて2007年に始まった新景観政策について簡単に触れておきます。全体として、この新景観政策は、京都・まちづくり市民会議はじめまちづくり運動が主張し発表していた構想や提案にきわめて近い内容となりました。まちづくり運動がこの政策を押しあげたといえます。連戦連敗のまちづくり運動が大勝利をつかんだといっていいでしょう。

 1990年ころからのまちづくり運動の主張の第一は、京都市域全体の構成を保全することでした。山並みへの眺望、三方の山並みに囲まれた都市の形態、伝統様式の木造住宅が大量に集積し、文化財的な意味をもつ都心居住地を保全を求めるものでした。

 第二に、建物の高さこそデザインの最大の要素だとして、次のような目安を示してきました。一般的な中心部居住地 10m(2階建)、商業機能のつよい地区 14m(4階建)、幹線街路沿い 20m(6階建)、幹線街路ですでにスカイラインがそろいつつある地区 31m(オフィスで9階建・マンションで 11 階建)が妥当な建築の高さだとしていました。現状をふまえたうえでの高さ規制の提案でした。第三に、美観地区・風致地区・歴史的風土特別保存地区などを充実し、さらに広い指定が必要であると主張していました。第四に、眺望を確保するような制度、ある地点からある景観が望めるようにという立体的な規制の可能性を探っていました。

 まちづくり運動が世界遺産に追加登録すべきたとした京都御苑・桂離宮・送り火の五山とその周辺が新景観政策でも重視される内容になっています。

 また特筆すべきことは、都心居住地西部(西の京・壬生・西七条)など、かならずしも伝統的建造物は多くないが、低層高密の市街地を維持してきたところが、従来美観地区ではなかったのですが、新法で美観地区にあたる景観地区となりました。景観地区は、建設にあたっては市長の認定を必要とするきわめて重要な場所です。

 今回の規制緩和は、住民運動の成果を多分に取り入れたこの新景観政策を踏みにじるものです。と同時に、景観地区にはあまり手を付けずにいるなど、新景観政策が意識されてもいます。

■「京都市の人口減日本一」をどうみるか

 2021年1月から2022年1月の住民基本台帳による京都市の人口減1万2千人が日本一であることが8月の末に報道されました。たいへんセンセーショナルで、マスコミもその人口減少は新景観政策で高いマンションが建てられないことからもたらされたかのように報じました。京都市もそれに乗じて規制緩和を図ろうと作為的です。

 人口減少でまず指摘しておかなければならないのは、1万2千人の減少で大きな割合を占めるのは、西京区の洛西ニュータウン・伏見区の向島・醍醐など大規模団地のある周辺部におけるものです。また東山・北山の山麓部でも減っています。新景観政策で高層マンションが建てられないので人口が増やせないというのはまったくの間違いです。


 ただ、コロナ禍にある特殊な1年だけの人口動態を分析するのはむずかしい面も指摘しておかなければなりません。京都市は大学都市ですから、若者が流動する割合が多いという事情もあります。実際、直近では大きい大学のある行政区では人口が転入超過になっています。

 高層マンションが建ちがちな中京区・下京区で人口が減っているわけではありません。高層マンションが建てられないので人口が増やせないというのはむしろ逆です。2007年の新景観政策で高さ規制が厳しくなったころから、中京区・上京区・下京区・南区の人口は2005年ころから増えています。



 高い建物が建つ都市計画をしても、かならずしも人口が増えない理由は次のとおりです。 一般に、戦前から大都市の都心部には商工住の混合土地利用がありました。これはすぐれた混合で、景観保存の対象にもなったりしています。しだいに高層オフィスが支配的になります。地価が上がるので郊外居住が増えます。ドーナツ化現象です。全国の都市で中心市街地では高層ビルが建ちましたが、人口密度が激減しました。また、中層のマンションに比べて、高層マンションは人口密度を上げる効率がいいわけではありません。周囲が駐車場や空地だらけになる場合があるからです。

 京都の場合、1970年代まで都心の工業が元気で業務地域化がゆっくりでした。親密が人間関係のある都心居住地が存続してきました。多くの伝統様式の住宅が存在してきました。高さ規制が31mだったので、1980年代から11階建のマンションが増えます。ワンルームマンションが多かったり、セカンドハウスとか投機用の人の住まないマンションも多くなります。それでも、2000年ころまで人口は減り続けました。

 郊外に対する施策を怠っているのが人口減の本質です。大規模団地や公営住宅に従来どおり人が住めるように制度を見直したり、建物を修復する必要があります。また必要な購買施設や福祉医療施設の充実を図らなければなりません。公共交通の充実も必要でしょう。一度創りだした居住地を修復して大切に利用する発想が重要です。今回規制緩和しようとしているところは、人口激減地域と都心とのあいだで、そこを「伸びしろのある地域」としています。コンパクトでない都市を作ろうとしています。

■居住地を食いつぶす規制緩和

 西院駅西南部の一帯の高さ規制を20m・25mから31mにしようとしています。現段階で中低層で密度高く住んでいるので、むしろ高さ規制をきびしくした方が密度ある居住地ができあがると思われます。規制をゆるめると、土地利用が荒れます。中低層の住宅で住みにくくなり、空き地や駐車場が増えたりします。中低層高密というのがもっとも合理的な姿です。

 答申では「市街地西部工業地域」のところでは「新景観政策以降………若い世代の市内居住を受けとめ………」といっていて、「住と工の混在」も肯定的にとらえています。そのまま中低層の町並みを維持しつつよい町にしあげていけばいいと考えられますが、しかしここは「伸びしろのある地域」だとみなしてもっと高い建物が建つ方がいいとしているのです。

 市の提案でとくに問題なのは山科の外環沿道や向日市境で超高層ビルが建つようにしようとしていることです。高度地区を無指定としています。京都市域にタワーマンションの建つ条件を作り出そうとしています。

 この市の都市計画をめぐる考え方には悪しき俗論がいろいろあります。「高さ規制は経済発展を阻害していて、住民は高い建物を建てたいががまんをしている」とか、観光についても「景観保全は観光客のためにやっている」とか、いうものです。そうではなく、よい生活がよい景観を醸し出す、それは安定した経済の表出でもあるそれを鑑賞するのが観光だというのが正しいのです。それは1980年代からの住民運動がねばり強くたたかってきた中味です。

 提案では表現にも品格を感じられません。「都市格が向上した」とか「都心部の熱を受けとめる」とかです。蛇足ながら市の提案中にある「サスティナブル」という表現はいただけません。恥ずかしいまちがいです。持続可能な sustainable は「サステイナブル」または「サステナブル」とカタカナで書くのが正しく、「ティ」はありえません。だれもチェックできなかったのでしょうか。京都市は「持続可能な」といいながら、いかにそれとは無縁の政策を展開していることを象徴しています。

■修復型まちづくりへの大転換

 日本社会が多局面で劣化しています。忖度行政など民主主義の後退、権力機構のバランスの変質、これが経済の停滞(一人当たりのGDP30位)にも反映しています。産業振興策もともなわず、経済の再建を計るかのようにみせて、高層建築を建てようとする開発資本を惰性的に応援する政府・自治体があります。美しい景観を有しながら、京都市政はその典型例です。つまるところ、京都市の人口減少・産業衰退を招くものといわざるをえません。今回の規制緩和案、空虚な意味不明の言葉の羅列があります。こういうことをくり返していると、自治体職員の気力・能力を摩滅させるのではないかと心配されます。

 喫緊にしなければならないのは、老朽化したインフラ・公共施設を改善する修復型の施策に集中することです。本来一度作ったものを大切に使うというのは日本の得意とするところです。が、建設行政では遅れていて、特例乱発の浪費的資本主義がはびこっているのです。

 例の答申は「拡大・成長から安定・成熟を前提とした都市づくりへの価値観の転換がもとめられる」といいますが、30年も前から言われていることです。今さらそんな文言を付け加えてはいますが、答申の内容は拡大・成長志向になっています。「やけっぱち資本主義」、「食いつぶし型規制緩和」といいたいところです。高さ規制を緩めたところで高層ビル・マンションが建ち並ぶわけではありません。パラパラと高層がたち、周りに駐車場だらけの荒れた景観が出現します。

 新景観政策において、広範囲に高さ制限15mの地域が増えましたが、これはきわめて合理的な基準でした。四階建くらいの町並みを基本とするのは、グローバル・スタンダードで、ヨーロッパの大都市ではよく見かけられる景観です。有名な都市計画家C・アレグザンダーの『パタン・ランゲージ』にも「4階建の制限」というキーワードがあります。東京や大阪の都心でもよく見ると、落ちついていて充実した土地利用をしている、そうした場所があります。

 1990年代から都市再生で好調なのがイギリスです。社会的排除(エクスクルージョン)を克服し社会的包摂(インクルージョン)を実現しようという理念が大きく掲げられました。つまり政策に参画する市民を広げることが、もっとも効率のいい方法だということに気づいたのです。イギリスのバーミンガム市は工業都市で社会と経済が荒廃するイギリス病の典型のような都市でした。2000年ころのバーミンガムの都市再生は「イギリスの奇跡と」呼ばれました。たとえば英語の苦手な人たちを社会参加させるなど、困難をかかえる住民を助ける事業に、NPOが活躍しやすい政策をとりました。形の上でも、衰退した工場倉庫群・運河をきれいにしレクリエーション利用したり、飲食店に改造したりしました。また、都心東部セント・マーティン教会周辺では歩行者専用道を増やし、雑居ビルを撤去しました。それほど大きくない教会が都市発祥の地のランドマークとなるよう再開発しました。新しい建物も四階建です。

こうしたことを、なぜ学ばないのでしょうか。