西脇府政のもとですすむ東京発の北山エリア開発計画
森 吉治(京都府職員労働組合連合)

森ビル、KPMGなど東京資本が主導

 2018年4月、京都府政はそれまでの総務省出身の山田知事から国土交通省の局長経験のある西脇知事に舵取りが委ねられた。西脇知事はこの間の全国知事会議で「バーチャルなネットワークとかテレワーク、オンライン会議も大事だが、それだけの普及で終わらせると抜本的な国土構造の改革につながらない。物流・人流などのリアルなネットワーク・・などリアルな国土政策も議論しないと、真の「国土強靱化」にはつながらない」(令和2年6月4日知事会議)と発言、最近の知事会議でも同趣旨で発言をしており、コロナ禍で異彩を放っている。その姿勢は北山エリア整備でも顕著にあらわれている。

 就任後の2018年7月12日それまで2年間止まっていた府立総合資料館跡地活用検討委員会が再開、また2024年に100周年を迎える植物園の100年未来構想委員会も開催された。注目すべきは、その両委員会には森ビル株式会社顧問の高橋信也氏、森美術館デザインコンサルティングマネージャーが名をつらねたことだ。またこれまでの北山文化環境ゾーンという名称から北山エリアとなり、最近は「開発」という言葉も関係者から聞こえてくる。

 森ビルの手がけたプロジェクトは、東京で六本木ヒルズ、最近では虎ノ門ヒルズなど、樹木や植物も施した都市型公園の要素も入れた都市型開発が特徴になっている。植物園も視野に入れ一帯を都市公園にという構図は大いに想定される。

 2019年に入り、府はスポーツ庁の助成もうけアリーナ的要素を持った体育施設の整備可能性調査を行い2020年3月には調査を受託したKPMGコンサルティングから報告書が提出され公表されている。2020年、コロナ禍でも見直されることなく、今度は北山エリア整備計画の策定業務をプロポーザルで募集し、KPMGの関連のあずさ監査法人が約1500万円で受注。2020年12月府議会に「北山エリア整備計画」が報告された。ただ、議決案件でなく報告にとどまり、府民が計画策定に関与するしくみはない。

 2021年に入り、プロジェクトは加速、新年度を待たず3月に北山エリア整備事業手法等検討業務が公募型プロポーザルで行われ、これもKPMGが受注した。

 その検討業務、公共工事であれば設計書とも言える基礎検討資料が植物園はどういうわけか示されておらず、「現在において新規施設に求められる機能や規模等について具体的な検討を進めているところであり、本業務の受託事業者は京都府からの内容共有を受け次第、・・・必要な項目を加え植物園の整備に係る基本計画を作成する」となっているだけで、受注者が決定された。これでよく公募ができたなと言わざるを得ない。

コロナ禍でも北山エリア計画に急かされる 植物園、府立大学の現場

 植物園をめぐっては、4月末に始まったchange.orgのオンライン署名が5万筆、また全国の造園家や植物園・動物園関係者が呼びかけた署名も1万筆を超し、5月22日の京都府への要請では、府の大学等改革推進事務局長は「バックヤードは縮小しない」とアピールしたが、植物園の整備計画の見直しを求める会があわせて要求している北山通をセットバックし商業施設をつくることや植物園の縮小への言及はなかった。基礎検討資料が示されていない植物園については、本庁が毎週のように園のトップを呼び検討がされていると聞く。

 府立大学をめぐっては、アリーナだけが突出し大学のキャンパス整備は後回しとの指摘があることを意識したのか、府は目指す大学改革を受入れ、具体化しなければ施設整備にはGOを出さないと学部・学科再編などを現場に急がせている。そもそも知事が替わるたびに学部や学科が変わり、「大学の自治はどうなった」との声があがっている。一方、府が5月補正で予算化したコロナ禍で苦しむ大学生への食材提供事業については、肝心の府立大学で行うことには労働組合の要請にも腰が重く、PCR検査も具体化がされないなど完全に逆立ちした対応になっている。

 京都府庁内では保健所や健康福祉・商工・危機管理など関係部局が昼夜を分かたずコロナ対応に追われ、1人でも2人でも人員を回してほしいと悲鳴に似た声もあがっている。府民にとって北山エリア整備を異常なスピードですすめられている理由はなく、いったん立ち止まり、住民や当事者の声を聞き仕切り直しをするのが当然だろう。また、単純に考えてもアリーナ160億円などシアターコンプレックスや賑わい施設整備など500億円はくだらない資金計画も明らかでない開発は、来年の知事選挙で信を問うてからでも遅くない。

 府は急ぐ理由に老朽化した体育館を放置できないことをあげているが、そもそも府立大学の老朽校舎の改築はずっと現場からも強い要求があり、私も4年前に当時の山内副知事との懇談の場で、この問題に触れた際、「府大がプランを持ってこないから」との答えだったが、京都府が責任を持たなければならない学生・教職員の安全を確保するための措置としての耐震改修や建替え等の不作為を重ねてきたことは明らかだ。

成長戦略としてのアリーナ改革の流れのなかに

 北山エリア整備計画だが、その背景となる動きを見ておく必要がある。

 北山エリア整備は、1万人規模のアリーナを核に宿泊施設を含む賑わい施設をつくり一帯を開発するもので、そのために植物園や府立大学の敷地を提供し、運営する企業が何十年と府民の財産である公有地を独占的に使い続けることできるようにするねらいがはっきりしてきた。

 アリーナ改革については、骨太の方針2016年で成長戦略の加速、新たな有望市場の創出・拡大の中で「スポーツを成長産業にしていくため、施設の収益性向上」を位置づけ、それをうけた1億総活躍プランではスポーツの成長産業化を図るとして「スタジアム・アリーナ改革、スポーツを核にした街づくり、スポーツ産業の活性化による収益の拡大」とうたっている。さらに同年の日本再興戦略2016ではスポーツ市場規模2015年5.5兆円を、2025年までに15兆円に拡大する目標が設定された。そして、講ずべき具体策として「スポーツ観戦の場となる競技場や体育館等について・・・収益性を有する施設(スタジアム・アリーナ)への転換を図るため、施設の立地・アクセス・規模・付帯施設・サービス等、整備や運用に関するガイドラインをまとめ、その作成と具体的な施設整備・運営に官民共同で取り組むべく、官民連携協議会(仮称)を早期に立ち上げる」ことを明記した。2017年11月にスポーツ庁に設置されたスタジアム・アリーナ官民連携協議会がスタジアム・アリーナ改革指針、選定基準や選定方法も示し、全国で具体的な動きを加速させている。スポーツ庁のHPでは、2020年8月31日時点として、スタジアム・アリーナの新設・立替構想と先進事例形成の現状として、スタジアム・球技場52件、アリーナ・体育館43件が紹介され、その中に京都府立大アリーナ構想も入っている。成長戦略としてのスタジアム・アリーナ改革が背景にあることは明らかだ。

出典:スタジアム・アリーナ改革について(スポーツ庁)

 また北山エリア整備計画で、知事は議会で民間資金を導入し府の財政負担を減らしたいと答弁しているが、全国的に民間資金の導入を促進する法的しくみも見過ごせない。民間の資金やノウハウにより公共施設の建設と調達を行う法律であるPFI法が1999年に成立したが、民間資金の導入がすすまないもとで2013年法改正で政府・民間の共同出資のファンドとして「株式会社民間資金等活用事業推進機構」が設立され、公共施設整備への民間資金導入を促進するしくみがつくられた。こうした動きも視野においてだろうが、果たして北山エリアで民間資本の触手が動くかどうかは賭に近い。

これだけある重大問題

 そうした経過をたどってきた北山エリア整備計画だが、経過だけでなく、計画そのものにも以下のような重大問題が次々に明らかになっている。

 ①府立植物園が縮小・改変される計画で、歴代園長も警鐘を鳴らしている。
 ②大学体育館のはずが1万人規模の巨大アリーナが出現、学生の学ぶ権利が奪われる。
 ③アリーナを優先する結果、府立大学の老朽校舎整備は後回しになる。
 ④公有地にアリーナを核に宿泊施設も含む賑わい、商業施設ができる。
 ⑤豊かな自然環境や生活環境、景観などにはかりしれない影響を与える。
 ⑥事業規模、資金計画も明らかにされず、つけは府民の負担になる危険性が高い。
 ⑦地域の将来や大学、施設のあり方を左右する計画なのに、東京発の計画で地元や当事者にも説明されずにすすめられている。

老朽化が深刻な京都府立大学校舎

 京都のことは京都で、北山エリアのことは地域住民、施設利用者、学生・教職員などまず当事者が議論するところからはじめるのが地域計画の基本だと思うが、今回の北山エリアの開発は、東京発、民間企業発でクローズにすすめられている。

 4月末からわずか2ヶ月間に全国から6万5千筆に及ぶ署名が寄せられており特筆すべき運動になっている。京都府はこうした声に真摯に向き合い、計画を出発から見直すべきである。