第3回 新型コロナ禍の中での京都市財政の危機の実相
平岡和久(立命館大学教授(地方財政論))

3.新型コロナ禍のなかでの京都市財政の危機の実相

(1)2020年度における財政収支

 次に、京都市の財政収支の実態をより詳細に検討しましょう。まず、2020年度における財政収支については、当初予算では193億円の財源不足となっていました。それが、2020年10月時点での見込みでは新型コロナの影響を織り込んだため、財源不足が273億円に増加するとしていました。ところが、2月補正予算時点では財源不足額は当初予算と同額の193億円と戻っています。10月時点での試算では新型コロナによる税収減や歳出増を過度に見積もったものとおもわれます(表2-1表2-2)。

 2021年8月初旬の時点では2020年度決算は公表されていませんので、決算における財源不足額が注目されます。コロナ禍の影響等から投資事業やソフト事業が中止または先送りされたケースが多くあることから、決算ではある程度の執行残が生じるとおもわれます。そのため、決算においては財源不足が193億円より縮小するものと推察されます。

 2020年度決算における財源不足額の数値は今後の財政収支見通しに影響することから、京都市は早急に決算見込みを公表すべきです。

(2)2021年度予算と財政収支

 次に2021年度予算における財政収支を検討しましょう。

1)財源不足500億円という10月試算での見通しと当初予算の相違

 京都市は2021年度予算編成に当たって、2020年10月時点の推計では500億円もの財源不足が生じるとしていました。それに対して2021年度当初予算では10月試算時点での推計の見込みの変更および厳しい歳出削減によって財源不足を264億円縮小し、236億円に圧縮しました。236億円の財源不は行革推進債32億円、調整債23億円、および公債償還基金の取崩し181億円で手当されました。なお、市の説明によれば公債償還基金取崩しのうち新型コロナ影響分123億円とされています。つまり、新型コロナ影響分以外の要因による取崩しは58億円にとどまることになります(表2-1表3 )。

 新型コロナ影響分はコロナが収束に向かうなかで解消されると予想されるのであり、財政見通しを冷静にみる必要があります。さらに、過去の財源不足額をみれば、毎年度、予算編成時の財源不足見込み額より当初予算の財源不足額が少なくなり、さらに当初予算における財源不足は決算において縮小しています(表3)。つまり、新型コロナの影響分を除く公債償還基金取崩し額は決算において減少する可能性があるのです。

2)一般財源収入

 予算編成前の10月試算における財源不足見込み額が当初予算で縮小した背景には、歳出削減策以外に推計そのものの変更がありました。その点をまずは一般財源収入の中身で見てみましょう(表4)。2021年度予算における一般財源収入は2020年度当初予算と比べ10億円増となっており、10月試算(10億円単位の試算)より39億円プラス(10月50億円単位試算からは59億円プラス)となっています。10月試算では一般財源収入を過少見積もりしていたことになります。

 2021年度当初予算の一般財源収入のうち市税は2020年度当初予算から140億円減となっており、10月試算(10億円単位)より58億円プラスとなっています。また、市税見通しに140億円の違いがあるにも関わらず、地方交付税・臨時財政対策債は133億円増となっており、10月試算と当初予算は一致しています。その背景として、10月試算では基準財政需要額を過少見積もりしていたとおもわれます。地方一般財源総額の前年度実質同水準ルールのもとで、地方税収が減少する見込みであれば、基準財政需要額を増加させるよう調整することで一般財源総額を確保する枠組みになっていることを認識すべきです(図1)。10月試算ではこの点が考慮されていなかったものとおもわれます。

 また、地方譲与税・府税交付金その他は17億円増であり、10月試算(10億円単位)(表5)より18億円マイナスとなっています。

3)歳出一般財源

 次に2021年度当初予算における歳出一般財源については、10月試算(10億円単位)と比して225億円減となっています。そのうち人件費は31億円減となっており、うち給与カット14億円、定数削減7億円、超過勤務の縮減7億円となっています。扶助費は7億円減、公債費は10月試算(10億円単位)と同額となっています。

 投資的経費については10月試算(10億円単位)から53億円減となっていますが、これは投資事業の見直し53億円によります。他会計繰出金等は10月試算(10億円単位)から58億円減であり、うち公共下水道事業繰出金34億円減および国保繰出金18億円減は歳出見直しとなっています。その他の歳出は10月試算から76億円減となっていますが、そのうち消費的経費見直し58億円、公共施設適正管理等7億円が主なものです。なお、消費的経費充当一般財源の削減のうち14.6億円はふるさと納税寄付金等の民間資金頼みとなっています。

4)小括

 以上のように、京都市財政は、新型コロナの影響もあり、財源不足の拡大と特別な財源対策への依存度の高まりという厳しい状況にあることは確認できます。ただし、2020年度決算が公表されていないことから、2020年度の財源不足と特別な財源対策が変更されたかが不明ですが、過年度において予算における財源不足が決算においてある程度縮小してきたことを踏まえると、2020年度および2021年度予算における財源不足は決算においてある程度縮小するものとおもわれるのであり、財源不足の過大な見積もりには注意が必要であることが指摘できます。