第4回 行財政改革計画案の内容とねらい
平岡和久(立命館大学教授(地方財政論))

4.行財政改革計画案の内容とねらい

(1)行財政改革計画案の性格

 次に計画案の内容を検討しましょう。まず、計画案の性格に関わって、その記述のなかから気になる点をみましょう。

 「コロナ禍で厳しい状況にある市民生活、地域企業等の下支えは、躊躇なく実施し、市民生活のセーフティネットとしての役割を果たしていかなければなりませんが、同時に、財政構造の改革は待ったなしの状況です」

 この記述は、市民生活のセーフティネットとしての役割を果たすといいながら財政構造改革は待ったなしとして、市民サービスのカットや市民負担増を正当化するように読めます。そうであれば、結局は市民生活のセーフティネットを守れるのかが疑問となります。むしろ、財政構造改革が市民生活のセーフティネットを破壊することにならないかという懸念が出てくるのも当然でしょう。

 「コロナ禍と危機的な財政状況、この2つの危機を、行政と、京都ならではの市民力・地域力により、乗り越えていく必要があります」

 コロナ禍で社会経済活動を政策的に抑制したため、地域経済や市民生活に重大な影響が出ており、「市民力・地域力」で乗り越えられるものではありません。コロナ禍のような厳しい災害に対して市民生活を守るには行政の役割が決定的に重要なのは論を待ちません。それにも関わらず、コロナ禍と危機的な財政状況を「市民力・地域力」で乗り越えろというのは、結局は、財政が厳しいので市民サービスをカットし、市民負担増を行うが、我慢しろと言っているようなものでしょう。

(2)行財政改革計画案と中期財政収支試算

 計画案における財政収支試算は2020年11月に作成した中期財政収支試算(以下、11月試算)をもとに2021年度予算編成における歳入増加・歳出削減策等を反映したものとなっています(表6 )。

計画案では歳出の分類の変更が行われるとともに、不測の事態用の歳出10億円の枠および資産有効活用による収入の枠が設定されました(表7-1)。歳出分類の変更の理由は説明されていませんが、歳出削減ターゲットの明確化(社会福祉関連経費、人件費、消費的経費等、投資的経費、公営企業等への繰出金)が目的ではないかとおもわれます。

11月試算における2021年度~2025年度累計2800億円の財源不足に対して、2021年度当初予算での歳入増加・歳出削減を反映した財源不足解消額は870億円(うち財源不足過大見積もりの是正239億円、歳出削減631億円)となっています。これにより2021年度~2025年度累計の財源不足額は1930億円に縮小されました(表7-2表7-3 )。

計画案では、2022年度~2025年度の4年間の歳出上限を設定し、累計774億円の歳出削減を目標に置きました。この目標が達成されれば財源不足は1156億円に圧縮され、2025年度の公債償還基金残高1000億円以上を確保することができるとしています。ただし、今回の計画案では2026年度以降の試算を公表していないのは問題です。

さらに問題なのは、計画案における財政見通しにおいて11月試算の歳出過大見積もりがまだ継続していることです。なかでも「施設運営費、内部管理経費等」のうち新規充実事業+15億円を毎年度プラスしていく試算前提が継続していることは問題です。また、歳入一般財源における地方交付税・臨時財政対策債の試算前提に、基準財政需要額における包括算定経費等の減少(△19億円/年)が入っているのも問題です。総務省によれば、2021年度のように地方税収全体が減少する場合はむしろ包括算定経費は4.0%程度の増が見込まれていますので、この点を考慮していないとすれば、一般財源収入の過少見積もりになっているとおもわれます。

(3)京都市「行財政改革計画案」における必達目標設定をどうみるか

計画案では、2021年度当初予算を踏まえた試算を基準に、2022年度~2025年度の4年間で760億円の財源捻出を必達目標としています。そのための歳出上限設定にもとづき、経常的経費・投資的経費等で714億円の歳出削減、資産有効活用で100億円の収入増を目標としていますが、過大な財源不足見込みにもとづく目標とみられます。

 そのうえ計画案の必達目標設定は、新たな政策的経費の枠の確保を優先し、そのために福祉事業や独自施策などをカットするための歳出上限設定としての性格が強いとおもわれます。

 11月試算に基づくのではなく、2021年度当初予算からの増減でみれば、2025年度年度時点での社会福祉関連経費+96億円をまかなうために、消費的経費等△77億円、△人件費29億円を削減するという構図です。そうであれば、実質的な「消費的経費等+人件費」の削減目標は2025年度で2021年度予算に対して100億円程度削減、4年間で250億円程度の削減で済むことになります。

 さらに、福祉関連経費の増加は基準財政需要額にある程度反映されるはずですので、一般財源の見通しが過少になっている可能性があります。また、財源不足分に対して課税自主権の発揮などでまかなうことができれば、これらの歳出削減目標は低くできるのではないかとおもわれます。

 計画案における最大の歳出削減のターゲットは「消費的経費等」であり、2021年度当初予算を反映した11月試算に対して2025年度の単年度で△180億円を目標としています。そのため、施設運営費、福祉事業費、補助金、教育、中小企業支援、ごみ処理、文化・スポーツなど各種事業における歳出上限設定が打ち出されています。主な削減・負担増の対象は、補助金見直し、イベント見直し、公の施設使用料・手数料の総点検、市営住宅家賃減免制度など減免制度の見直し、民間保育園等職員給与補助金の見直し、学童う歯対策事業の見直し、保育料・学童保育利用料引き上げ、障害児通所施設利用料負担軽減の見直し、敬老乗車証の見直し、小中学校統廃合となっています。これらの見直しが実施された場合、市民生活への影響がきわめて懸念されます。

 しかし、先に述べたように2025年度180億円の削減目標は過大です。少なくとも2021年度当初予算を基準とすれば2025年度に77億円削減で済みます。さらに課税自主権発揮などでまかなえれば、消費的経費の削減目標は引き下げられるのではないかとおもわれます。

 社会福祉関連経費(扶助費+介護保険・後期高齢者医療・国保の公費負担)については2021年度当初予算を反映した11月試算に対して2025年度±0億円が設定されており、2021年度当初予算での国保会計への繰出金縮減の継続などが前提となっています。

 人件費については、2021年度当初予算を反映した11月試算に対して2025年度△37億円が設定されており、4年間で550人の職員数削減が打ち出されています。職員削減は、コロナ禍で公共部門の強化が求められるのに対して逆行する面があります。

 公債費については、2021年度当初予算を反映した11月試算に対して2025年度±0億円となっています。

 投資的経費については、2021年度当初予算を反映した11月試算に対して2025年度△30億円が設定されており、年平均170億円規模に圧縮することが打ち出されています。しかし、2021年度当初予算における投資的経費が127億円であることに鑑み、公共施設等の老朽化対策にかかる経費の増大を加味しても、大型事業等を見直せば、さらに圧縮できるのではないかとおもわれます。

 公営企業等への繰出金については、2021年度当初予算を反映した11月試算に対して2025年度△18億円が設定されており、下水道事業への出資金休止が盛り込まれています。下水道事業会計への繰出金の抑制は今後の水道料金の引き上げにつながるおそれがあり、注意が必要です。

 また、新たな項目として資産有効活用による歳入増4年間累計100億円が設定されていますが、資産活用による収入増に前のめりのあまり、まちづくりが歪まないかについて注視しなければなりません。

(4)京都市「行財政改革計画案」における必達目標を上回る財源確保について

 計画案では、さらに必達目標を上回る財源確保についても打ち出しています。

 第一に、都市の成長戦略の効果の早期発現による市税収入増加、更なる資産有効活用、ふるさと納税などの税外収入の増加です。なかでも都市の成長戦略については、担税力の強化を図るための様々な取り組みが盛り込まれていますが、それらの取り組みには事業費がかかってくる一方、それらが担税力につながるかどうかは不透明です。その点では、成長戦略は歳出増につながるリスクを孕んでいるといえます。

 第二に、市民サービスの水準と負担水準の均衡の観点からの見直しです。つまり、さらなる市民サービス削減、市民負担増を進めようというものであり、市民生活に影響することになります。市民サービス水準の見直しの基準を検討するのであれば、公共性の観点から、守るべきサービスの優先順位を明確にし、公平かつ慎重な検討が求められます。

 第三に、課税自主権の活用です。新税や超過課税等の導入をはじめとした課税自主権の活用については、計画案では具体的に検討するとしているが明確な方向性は提示されていません。

 第四に、将来の公債費の低減です。現在高止まりを続ける公債費を将来低減させるために、2022年度から2025年度の予算編成において、投資的経費の市債発行額の上限を2016年度から2020年度の5年間平均から14%抑制した年平均380億円(調整債を含めると400億円)とすることにより、2025年度末の臨時財政対策債を除いた実質市債残高を2021年度末見込みの8722億円以下に抑制するとしています。これはやや緩い目標設定になっており、さらに切り込むことが可能であるとおもわれます。

 なお、計画案によると、2026年度以降も投資的経費の市債発行額を年380億円(調整債を含めると400億円)で継続した場合、公債費は2029年度にピークを迎え、それ以降減少傾向となる見込みであると言います。このことから、計画案よりさらに投資的経費を抑制すれば、さらに将来的な公債費負担を抑制できることがわかります。

(5)市の行財政改革の隠れたねらい

今までの検討で明らかなように、コロナ禍による影響を除けば、京都市財政は慢性的危機状態にあることは事実であるとしても、急性の財政危機を過度に煽る必要はないとおもわれます。しかも、コロナ禍により地域産業や市民の生命や暮らしの危機が進行するなかで、行政が役割を果たしていくことが最優先のはずです。こうした行政責任を果たしながら慢性的財政危機を打開するための行財政改革を進めることは可能です。にもかかわらず、京都市はなぜ、このままでは財政再生団体になるなどと、急性の財政危機を強調し、行財政改革を急ごうとするのでしょうか。

その背景として考えられるのが、財政危機とコロナ禍を奇貨として、これまでできなかった福祉独自施策の廃止やリストラを強行し、自助を強いるとともに、浮いた財源と規制緩和で新たな開発と企業誘致などの基盤整備を進めようというものです。表8は行財政審議会に市が提出した資料によるものであり、今後予定している主な大規模公共施設の整備を示したものです。特に、北陸新幹線や堀川通のバイパス整備などのJRや国の事業に対する市の負担がどうなるかは現時点では明らかでなく、市の財政負担が膨張する可能性があります。

 これらの大型投資事業は必要かつ優先度の高いものと、優先度が低く見直すことが妥当なものが混在していると考えられますが、市民の生命や暮らしを守ることを優先する観点から大規模投資事業を見直すことができれば、福祉や独自施策を維持できる範囲が広がることは明らかです。