2022年の年頭にあたって
岡田知弘(「ねっとわーく Kyoto ONLINE」運営委員会代表)

 みなさん、新年おめでとうございます。

 私たちが、「ねっとわーくKyoto Online」のサイトを開設してから、ちょうど半年になります。この間、京都の地域、政治、経済、文化など住民生活にかかわる広いテーマを中心に、様々な分野の皆さんに、執筆していただきました。また、多くの皆さんに会員登録していただいて、このサイトの運営を物心両面にわたって支えていただいたことに、深く感謝いたします。

 まだまだ立ち上げ途上にあり、会員向け独自サービスをはじめ十分に展開できていないところも残されていますが、開設1周年までには整えていきたいと考えていますので、温かく見守っていただきたいと思います。

 さて、この半年の日本や京都の政治・経済・文化・暮らしに関わる動きを振りかえると、私たちが「創刊の辞」で指摘した憂慮すべき事態が、依然として続いているように思います。

 第一に、菅義偉政権による東京五輪の強行開催によって、新型コロナウイルス感染症の第5波が東京を中心に襲いかかり、医療崩壊とともに多くの犠牲者を生み出しました。その後、コロナ禍の感染被害は急速に落ち着きましたが、長引く行動規制と「補償なき自粛」、さらに時短協力金などの交付の遅れによって、中小企業・小規模企業を中心に休廃業・倒産が増え、雇用と所得が維持できないなかで、若い世代も含めて自殺者が急増し、食料支援プロジェクトに多くの人々が集まる事態となっています。これは、京都市内でも例外ではありません。

 第二に、東京五輪後の政権維持に失敗した菅首相は、自民党総裁選挙への出馬を断念し、代わって広島出身の岸田文雄総裁が選出されました。安倍・菅政治からの転換を当初表明していたにも拘わらず、安倍元首相が高市早苗候補を前面に押し出すことで圧力を加えたことから、岸田氏は急速に安倍政治を追従するものに変わっていきました。岸田総裁は、国会で首相に任命されたのち、総選挙を前倒しするとともに、徹底した組織戦によって、自公の議席数の目減りを最小限に抑え、絶対過半数を維持することに成功しました。

第三に、自民党総裁選挙から総選挙、さらに総選挙後の「野党共闘失敗」に至る政治過程における大手マスコミの果たした役割には、看過できない問題がありました。一政党に過ぎない自民党の総裁選挙については候補者の動静や演説を長時間にわたり報道したのに対して、その直後の総選挙については報道時間が短かく少なかっただけではなく、コロナ禍をはじめとする基本問題についての本質的報道が少なく、在阪のテレビ局を中心に大阪維新の会の幹部や元代表の言動を無批判かつ評価する形で垂れ流しました。

 総選挙の結果、解散前の議席数と比較し、自公政権与党が微減し、維新の会が「躍進」する一方、野党共闘の中心を担った立憲民主党と共産党が解散前と比べて議席数を減らしました。大手マスコミは、この結果をもとに「野党共闘失敗」論を、連合会長の談話を皮切りにキャンペーンを繰りかえしました。結局、枝野幸男立憲民主党代表の辞任から国民民主党に近い泉健太氏の代表選出に至る流れをつくっていったのです。さらに、国会での野党の政府発言を封じこめるキャンペーンを展開したり、大阪府と読売新聞大阪本社が包括連携協定を結ぶなど、戦前から戦時に至る「大政翼賛体制」が、国政レベルでも地方政治レベルでも、一段と進行し、ジャーナリズムの批判性、自律性が急速に失われてきていることに、強い懸念を表明せざるをえません。

 第四に、総選挙直後の「野党共闘失敗」論の意図するところは、時間の経過とともに明確になりました。それは、総選挙直後に、松井一郎維新の会代表が「夏の参議院選挙で改憲の国民投票を行うべき」と発言し、それを受けて玉木雄一郎国民民主党代表が「毎週でも、衆議院憲法審査会を開催すべき」と表明しました。さらに岸田首相も、国会での改憲勢力の伸長を背景に、改憲に向けた前のめり発言をするだけでなく、軍事費の増額と敵基地攻撃能力の強化を表明し、安倍元首相以上に解釈改憲と明文改憲を同時に追求する姿勢をとってきています。

 実は、総選挙の遊説中、松井代表は憲法改正についてはほとんど語っていません。争点のひとつとしてマスコミも報道していませんでした。それが、総選挙後に、一気に「憲法改正」論議が前面に出てきたことに、「成長願望」「開発願望」をくすぐられて維新の会に投票した人々も、戸惑っているのではないでしょうか。

中央 京都府広報課出版による1965年版「憲法」
左右 「手のひらに憲法プロジェクト」による2018年ポケット憲法

 いずれにせよ、今夏の参議院選挙を節目に、台湾有事等を素材に「憲法改正」の大合唱がマスコミによって垂れ流されるのは必定です。最悪、国民投票になることも想定した場合、現代の憲法問題について、正しい理解を、できるだけ多くの国民にしてもらうための、地域からの草の根の取組を、今まで以上に広げていく必要があるといえます。

 改憲勢力がねらうのは、現行憲法九条の改憲であり、緊急事態条項の新設ではありますが、前者については解釈改憲がかなり進んでいます。後者については、コロナ禍での緊急事態宣言下での政府の無能・無策ぶりを例にあげるまでもなく、国家権力をもてあそんで、私権を制限し、少数の支配者と忖度官僚、そしてそれにつながる少数の財界人が利益をむさぼるものにすぎません。決して、国民の命と暮らしを守るためのものではないことを、私たちはこの2年間で学んでいます。

 さらに、戦後改革と戦後憲法の下で合法化された国民主権、基本的人権、生存権、財産権、学問の自由、思想・信条や表現・報道の自由、個人の幸福追求権、地方自治権を、解釈改憲に基づく法改正や勝手な制度運用によって、なし崩し的に破壊してきています。その行きつく先は、人権の尊重、多様性や批判を許さない「戦争ができる国」づくりであることは言うまでもありません。

 この「統治構造」の改革を、憲法改正や道州制の導入によって実現することを党是として謳って発足したのが、維新の会です。今回の総選挙で、維新の会は大阪府内だけではなく、京都府、兵庫県などの近隣府県、そして首都圏でも一定の票を獲得し、過去2番目の議席を確保しました。が、その大阪府がコロナ禍において、死亡者の人口比率が最悪であるほか、完全失業率の高さ・上昇率も最悪レベルであり、この10年間、地域経済の「成長」は見られず、むしろ、地域経済や社会を支えてきた中小企業の事業所数も従業者数も大きく減少させていることや、維新に所属した議員や首長が数々の事件を起こし辞職している実態をみると、とても未来を託せるものではないといえます。維新政治の実態を報道しない在阪マスコミの責任は極めて大きいと言えます。

 総選挙の結果に落胆している人も少なくないと思います。しかし、マスコミの世論誘導的論調を批判的にみて、国民の投票行動を客観的に見ていくならば、注目すべき事実を確認することができます。たとえば、小選挙区で甘利明幹事長や石原伸晃元幹事長など自民党の重鎮候補が野党共闘候補に負けたり、僅差で辛勝した選挙区が数多くあります。また、有権者の投票行動を比較するならば、解散前議席とではなく、前回の2017年総選挙と比較すべきです。というのも、この間に、「希望の党」騒動があり、旧民主党の再編のなかで、国会内での議席異動があったからです。

 まず、議席数を2017年総選挙と比較すると、立憲は55議席から96議席へと躍進しています。次に、比例票をみると、投票率が若干増えたので、自公両党が148万票増やしましたが、野党共闘4党では248万票も増やし、政権与党を100万票も上回ったのです。また、希望の党、維新の会、国民新党を「自公補完」勢力とみなすと、これらは議席数も総得票数とも減少させているのです。

 このようなデータを見る限り、「野党共闘失敗」論は、これらの事実を覆い隠し、もっぱら野党共闘を分断し、改憲に向けた政局を無理やりつくりだそうというものであり、戦前期の反共攻撃を使って無産政党を分裂させて挙国一致体制に移行させた動きと酷似していることがわかります。しかし、先の客観的データを見る限り、日本の多くの良識ある人たちは、これまでの安倍・菅政治への反発を強め、憲法に基づくまともな政治を求めていることが明確だといえます。

 そのような人たちを、この京都の地からさらに広げていくために、私たちは京都から「憲法を暮らしのなかに生かす」(蜷川虎三京都府元知事)動きを一層強めていきたいと思っています。また、そのために2018年1月に、京都自治体問題研究所に事務局を置いて、「手のひらに憲法プロジェクト」を開始し、日本国憲法だけでなく、大日本帝国憲法(明治憲法)、そして文部省(当時)の「新しい憲法のはなし」(1947年)の抄録を掲載したポケット憲法の普及活動を行ってきました。ぜひ、このポケット憲法も活用していただきたいと思います。

 また、コロナ禍の下で、これまでの大規模公共事業やインバウンド観光、市場化最優先の地域政策が、根本的に行き詰まり、中小企業を主体にした内部循環型地域経済の構築が必要不可欠になってきていることが明らかとなりました。ところが、京都府や京都市は、これまでと同じように、リニア新幹線や北陸新幹線の建設にこだわったり、京都市北山地区での植物園再開発事業を共同で推進する姿勢を崩していません。京都市にいたっては、いち早く財政破綻宣言を市長が表明し、コロナ禍の財源不足を奇禍として、各種市民負担の増額を一気に推進しようとしています。これでは、持続可能な地域経済・社会をつくることはできません。コロナ禍の教訓をもとに、一人ひとりの住民の生活が維持、向上するような地方自治体を創り出すことが求められているといえます。そして、この間の投稿記事に明らかなように、京都府内ではそれに向けた様々な地域での取組みが広がっていることも確かです。この展望を広げていくことも、今後重要な使命であると考えています。

 最後になりましたが、「ねっとわーくKyoto Online」の持続的発展のために、多くのみなさまに会員になっていただき、物心両面にわたるご支援をお願いしたいと思います。併せて、京都の地域を中心に、調査・分析すべきテーマがありましたら、ぜひ、情報をお寄せください。

2022年元旦