「戦争か平和か」日本の針路が問われている
憲法前文と9条の理念を活かした平和外交をする日本に変えよう
片岡明(京都平和委員会 理事長)

大軍拡・戦争準備の自民党政策

 7月の参院選に向けて自民党は、「決断と実行。日本を守る。未来を創る。」をスローガンに掲げた選挙公約を発表しました。外交・安全保障政策では、防衛力の抜本的な強化に向けて、NATO=北大西洋条約機構の加盟国が、防衛費の目標をGDP=国内総生産の2%以上としていることも念頭に、来年度から5年以内に必要な予算水準の達成を目指すとしています。また、弾道ミサイル攻撃を含む、日本への武力攻撃を抑止し、対処するための「反撃能力」を保有することも盛り込んでいます。

 先に出された「自民党提言」には、抜本的に強化する分野として「スタンド・オフ防衛能力や無人化装備」「宇宙・サイバー・電磁波領域を含む領域横断能力」「機動展開能力」「指導統制・情報関連機能」などをあげています。また「民間技術を取り込む」「装備移転に係る見直し」などに触れ、「経済安全保障推進法」のもと軍事技術にかかわる機密保全や、人的基盤として(自衛隊員が取得した資格を再就職後にも活かせる)資格制度の検討へと反映されています。

 日本が軍事費を2倍にしたら自衛隊の勢力が2倍になる、そんなことはないでしょう。けれど、新しい武器の購入や開発、宇宙などへの領域拡大で際限なく浪費することはあきらかです。2022年1月の日米安全保障協議委員会(いわゆる「2+2」)以降、「思いやり予算」を「同盟強靭化予算」として米軍基地機能の強化もすすめており、国民生活破壊の大軍拡の先に9条改憲・戦争法発動という危険な方向がみえています。

「重要土地等調査法(いわゆる「土地利用規制法」)」について

 
 自民党の政策には「安全保障上重要な施設の周辺や国境離島等における土地の取得・利用実態を国が的確に把握し適切に対処するため、「重要土地等調査法」の執行を着実に進めます。」とあります。現在もすでに「報道」や「反戦デモ」を敵視する自衛隊と米軍が一体化した基地警備、ドローン・CBRN対処の訓練が繰り返されています。それに加え、この法律では、米軍基地や自衛隊基地を念頭に防護すべき「重要施設」が設定されます。

 防衛省HPドローン規制法の適用範囲(300m)より(土地利用規制法では1kmに設定される)

 それら「重要施設」に対する「機能阻害行為」として①継続的な高所からの監視・盗聴など、②周囲の送電線、水道管などを破壊し、施設へのライフライン供給を阻害、③坑道の掘削、施設地下への侵入・攻撃、④銃器による攻撃、⑤電波妨害(ジャミング)などを例示しています。こうした「機能阻害行為」が頻発するといった立法事実のない国民弾圧の法律は廃止すべきです。安保法制をはじめ、「敵基地攻撃能力」の保有や改憲の企てなど「海外で戦争する国づくり」の下で進む国民監視・敵視の動きを許してはなりません。

米陸軍「経ヶ岬通信所」は「Kill Chain(キルチェーン)」を始める基地

 京都も戦争準備にかかわり無縁ではありません。2022年2月末から在日米陸軍司令官が青森県の「車力通信所」と丹後の「経ヶ岬通信所」を訪れ、「At the start of the Kill Chain on the Knife Edge of Freedom!」「Great warriors on the Knife Edge of Freedom. Thanks for keeping America safe!」とツイッターで投稿していました。意訳すれば「自由が危機に直面するなか、(車力や経ヶ岬は)「Kill Chain(直訳すれば「殺戮(さつりく)の連鎖」」を始める場所であって、それはすでに始まっている」ということです。ミサイル防衛の分野では、①目標の探知・識別、②迎撃ミサイルの指向、③発射命令、④破壊の検証といった手順のことです。司令官のこの発言は3月1日に京丹後市長も参加した「経ヶ岬通信所住居支援施設完了式」でのスピーチだったということも重大です。アメリカ本土や日本のミサイル防衛にとって重要とされてきた基地が、ウクライナへのロシア軍侵攻や北朝鮮のミサイル発射の情勢下、自衛隊側で言う「破壊措置命令」の態勢にあるということを公式な場で表明したということになります。2017年の部隊広報誌にある「米本土防衛の第一線」という言葉が、地球規模でミサイルを撃ち合う戦争の連鎖を始める基地を示すということがあきらかになりました。

 経ヶ岬通信所では工事・引っ越しが完了して以降、基地の警備も重視して米軍人によるゲートチェックがおこなわれるようになりました。

 経ヶ岬通信所の警備要員に対する実弾射撃訓練が再開されましたが、福知山射撃場内のトイレに行く際も小銃を背中に担いでいるなど安全管理上問題があります。また車両で移動する際は米軍人が運転する車両が随行する防衛局の車両を無視して行ってしまうなど、周辺住民の安全安心を脅かしています。また基地内ではドローンによる攻撃や基地侵入者との交戦などを想定して、戦闘訓練や化学防護装備のチェックをしています。米軍全体が臨戦態勢にあることがこの「経ヶ岬通信所」でもわかる状態になったといえます。

小銃を背にする米軍属:福知山での実弾射撃訓練中

「攻められても、攻めていっても」戦争は悲惨な結末

 「北朝鮮のミサイル」、「台湾有事」、「ロシアによるウクライナ侵攻」など不安をあおる要素があるなかで、「戦争になったらどうする」「攻められたらどうする」と考えるのは仕方ないことです。現に北朝鮮のミサイル発射・核実験、中国海軍の進出や超音速滑空弾配備、国後・択捉でのロシア軍ミサイル演習といった軍事行動がみられます。これに対し日本近海で空母2隻態勢、無人偵察・攻撃機の配備、グアムやパラオでの軍事演習をおこなうなど米軍の動きも可発化しています。

 そういうなか、南西諸島への中距離ミサイルを配備する計画において、ミサイルに核弾頭を装備するなら日本が「核共有」するべきだという自衛隊元幹部などの対談(「Will」、「文芸春秋」5月号)があり、自民党や日本維新の会では「核共有」をすすめようという動きもあらわれています。このような「幅寄せ、あおり運転」のような軍事挑発が元で偶発的な戦闘がはじまり、それへの「反撃能力」として「敵基地攻撃」に踏み切って、しかし相手国中枢の攻撃に失敗して核戦争に至るということも想定されます。しかし、日本が「攻められる」時点では空も海も封鎖され、国民は島国から逃げられません。戦争状態が長期化すれば輸入に依存する食糧・エネルギーとも枯渇してしまいます。陸路で避難や補給ができるウクライナとは違う島国日本では、もっと悲惨でみじめな結果がもたらされることを想定すべきで、紛争の火種をなくす努力をすることが必要です。

戦争回避の対話を

 6月にシンガポールで開かれたアジア安全保障会議で、米インド太平洋軍のアキリーノ司令官はインド太平洋地域の安全保障環境について「第2次世界大戦後、今が最も危険な時期になる可能性がある。中国がアメリカの同盟国やパートナーへの威圧など不安定化を招く行動をとり、北朝鮮はミサイルを発射してすべての国を脅かしている」と指摘したうえで、「紛争や危機に陥らないためにもコミュニケーションは非常に重要だ」と述べ、中国などを念頭に偶発的な衝突などを防ぐため、対話のルートの確保に努める考えを示しました(6月12日NHK)。つまり、重要なのは戦争を回避するコミュニケーションだということです。軍人の発言でも対話が重要というときに、大軍拡を容認し「核共有」を議論するなど日本の政治家はどうなっているのでしょう。

軍事同盟をやめ平和外交の推進を

 アジア安全保障会議ではまた、シンガポールのウン・エンヘン国防相の発言も注目されます。武力行使を否定する東南アジア友好協力条約(TAC)をアジアで紛争防止の「核心的な手段」にするよう呼び掛けるとともに、ウクライナ侵攻や米中対立を専制国家と民主国家の争いだとする論調を念頭に、「これらは専制国家と民主国家のイデオロギー闘争ではない」と指摘し、国際的な規範と外交関係の核心的な原則の順守、他国の主権と領土保全の尊重こそが問題の中心だ」と語っています(6月14日「しんぶん赤旗」)。

 ASEAN加入国が1976年に締結したTACは例外なしの「武力による威嚇または武力の行使の放棄」を明記していて、ASEANとの関係強化を望む域外国も加入できるとされ、日本、米国、中国、ロシア、インド、北朝鮮なども加入しています。北大西洋条約機構(NATO)は、域外の「脅威」に対し集団的に軍事力を行使することもあります。一方のTACは、域外の「脅威」に集団的に軍事力で対応せず、戦争放棄を決めた条約の加入国を増やしていくことで平和を実現しようとします。

 また、ASEANでは中国とベトナムは海域の国境問題を残しながらも、陸上国境問題を対話で解決した実績があります。2002年に「南シナ海行動宣言」で国際法の尊重、武力不行使、信頼醸成、領土。管轄権の平和的解決、航行の自由などを明記していて、2016年には宣言の完全かつ有効な実施に向けて、中国と共同声明を採択しています。ASEANという枠組みでは、中国も「対話の仲間」として平和構築に組み入れているということです。「ソ連を遠ざけ、アメリカを引き寄せ、ドイツを抑え込む」として設置したNATOのような軍事同盟とは異なります。NATO加盟国がロシアと敵対しているなか、アメリカはヨーロッパだけでなくアジアにもB52爆撃機や特殊作戦部隊を展開し、弾道ミサイルなどの警戒・監視態勢を強化しており、核戦争の一歩手前の状態にあります。日本はこうした軍事同盟に加担するのではなく、戦争放棄・戦力不保持を誓った戦争被爆国として、アジアにおける平和構築の枠組みと力をあわせ、積極的・攻勢的に平和外交をすすめることが、ロシアによるウクライナ侵攻をやめさせるためにも必要です。

アジア安全保障会議で基調講演をする岸田首相(岸田議員のHPより)

東南アジア友好協力条約(TAC:Treaty of Amity and Cooperation in Southeast Asia)
<第2条>
a すべての国の独立、主権、平等、領土保全及び主体性の相互尊重
b すべての国が外部から干渉され、転覆され又は強制されることなく国家として存在する権利
c 相互の国内問題への不干渉
d 意見の相違又は紛争の平和的手段による解決
e 武力による威嚇又は武力の行使の放棄
f 締約国間の効果的な協力

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