白紙撤回か、推進か
重要な局面を迎える北山エリア整備計画
森 吉治(自治体要求連絡会事務局長)

 山田知事から西脇知事に代わり、府の担当者の口からも開発という言葉が飛び出すほど変質し、加速した北山エリア整備計画。今夏、府立植物園整備に係る有識者会議や共同体育館、総合資料館跡地活用に係る意見聴取会議が連続して開催され、地元説明や新聞広告など新たな動きが出ている。秋にはこの地域のエリア構想を盛り込んだ府総合計画の見直しが行われる。はたして多くの心配や危惧の声に応えた見直しになるのか、強引に進むのか注目される。

1 北山エリア整備には口を噤んだ知事選挙

 2018年4月に国土交通省の局長出身の知事として新たに就任した西脇知事のもとで、2019年10月に京都府総合計画が策定され、エリア構想として、北山「文化と憩い」の交流構想が位置づけられた。その構想は、国際MICEを促進し、国内外から人が集い、交流し、京都から新しい文化創造を進めるために、次の3つの点で賑わい・交流機能を有する施設の整備に取り組むとしている。一つには旧総合資料館跡地に「コンベンション、宿泊、飲食施設等の集積や魅力的なイベントの開催等、賑わい・交流機能を持った施設整備がシアターコンプレックス構想とともに位置づけられたこと、二つにはアリーナの整備検討として、府立医科大学、府立大学、京都工芸繊維大学の共用体育館機能を有したアリーナの整備、三つには2024年に100周年を迎える府立植物園の未来構想としてビジターセンター、ショップ、カフェ等を備えた複合的な正門エントランスの整備、(北山エリア)ゾーン内に立地する各施設との垣根のない連携をすすめるとされている。

 その後、2020年12月には、巨大な姿のアリーナ、5階建ての商業ビル、植物園の垣根を取り払う形で商業施設、イベントゾーンなどのイメージ図も含む北山エリア整備基本計画が策定された。

 この計画が明らかになり、まず全国の植物や園芸の研究者が呼びかけ人となり「京都府立植物園を守る会」(代表小笠原左右衛門慰亮軒氏)が結成され「京都府立植物園の面積縮小に反対する」署名がとりくまれ、その後京都で北山エリアの将来を考える会、府立植物園整備計画の見直しを求める会(別称:なからぎの森の会)、府立植物園の環境と景観をまもる北区の会、北山エリアを考える府立大学学生の会、卒業生有志の会、教職員有志の会がそれぞれ立ち上がり、それぞれの要求に沿った署名が取り組まれてきた。その署名数は14万を超し、5次にわたり署名提出が行われてきた。こうした運動とともに府立植物園の歴代園長・副園長が記者会見も開いて警鐘を鳴らされ、植物園や北山地域の自然や環境を愛される方々からの発信も行われ、北山エリア整備のあり方が問われてきた。

 期せずして2022年4月の知事選挙では北山エリア整備が大きな争点となったが、西脇氏の公約には北山エリアのことは記載がなく、京都新聞の候補者アンケートの「北山エリアのにぎわいは必要と思われるか」との質問にも「どちらでもない」と回答、有権者の前からは逃げる形になった。

 知事選挙が終わるや一転、知事は振り切れたように北山エリア開発をすすめるようになった。

【北山エリア整備事業手法等検討業務報告書】

2 知事選挙後加速する北山エリア整備推進への動き

(1)知事直轄で文化施設政策監のもと異例の16人体制が組まれ2000万円が予算化

 知事選挙投票後、西脇知事はただちに人事異動要綱を発出、5月1日という要綱発出から1ヶ月もないタイミングでの人事異動を強行した。知事は文化施設施設政策監という部長級のポストを自らの直轄に置き、部長級4人、課長級6人を含む計16人体制をつくり、6月府議会に補正予算として2000万円を予算化、北山エリア整備へタクトを振った。新型コロナ対応の最前線の保健所でも5人の保健師が増員されたものの、事務職員が3名削減されるなかで、異例の増員となった。また北山エリア整備に係わっては、2019年アリーナ可能性調査1000万円(スポーツ庁予算)、2020年基本計画策定2000万円、2021年整備手法検討業務1500万円に続く4年連続の予算措置で、あわせて6500万円が関係経費として支出されることになる。調査や構想で5000万円を超す経費は異例とも言える。

(2)北山エリア整備基本計画やこれまでの経過を横においてすすめられる地元自治    連等への説明や有識者懇話会・意見聴取会議

 今夏、京都府は本来地域計画を考える際、まず最初に行なうべき地元自治連合会等への説明をようやく行った。しかし、そこではこれまで府予算で調査・検討し府議会にも報告されてきた北山エリア整備基本計画、整備手法に係るKPMGの報告書がまるでなかったかのように横に置かれて説明されている。また広報にも力を入れ周辺地域への全戸配布、新聞広告を連打してきたが、そこにはアリーナ、宿泊施設や商業施設の記載はなく、施設が老朽化したため整備するとして説明されている。あまりにも京都府総合計画や基本計画とはかけ離れたものとなっており、新聞広告を見られた方からも「アリーナ構想はなくなったのでしょうか」などの声もあがっている。

 有識者懇話会、意見聴取会議が行われたが、そこでもこれまでの府の検討プロセスのあり方を問う意見が委員からも相次いで指摘された。

 こうした動きのもとで、北山エリアの将来を考える会などが9月7日に要請をおこなったが、対応した文化施設整備政策監は、「地元への説明では基本計画が説明されていないが、計画を白紙にもどしたのか」との私たちの問いに、基本計画は「方向性を示したもの」「あくまでもイメージ」、「暫定的なもの」、「(アリーナ)は1万人にはこだわらない」、「これから個々の施設について意見を聞いて固めていきたい」と答えている。方向性の幅は広く、いったいどう考えているのか、疑心暗鬼を深めている。

 その総合計画の見直しがこの秋、行われる。まもなく中間案が示されるが、府の新聞広告から消えたアリーナ、コンベンションや宿泊施設はどうなるのかが注目される。中間案に対してパブリックコメントも行われる。ぜひ多くの意見が寄せられるように期待したい。

3 スタジアム・アリーナ改革の呪縛を断ち切れるか

 京都府が北山エリア整備の中心施設として大学共同体育館と言いながら1万人規模も想定されるアリーナに固執するのは、国あげてのスタジアム・アリーナ改革があることに他ならない。

【スポーツ庁・経済産業省】

 2016年から骨太の方針には新たな市場としてスタジアム・アリーナ改革が登場するが、今年の方針では、PPP/PFIの活用等による官民連携の活用をあげ、「スタジアム・アリーナ、文化施設、交通ターミナル等へのコンセッション導入」も明記されている。スポーツ庁のホームページに「多様な世代が集う交流拠点としてのスタジアム・アリーナ」選定の令和2年度及び3年度の結果と各拠点の事例集が紹介されている。私の責任で各事例を表にした(スタジアム・アリーナ改革」対象施設一覧表1、2)が、まだ構想段階だが北山エリアのアリーナはそれらと比べても特異だ。

 見ていくと「運営・管理段階」又は「設計・建設段階」の施設として11か所、「設計・計画段階」3施設が紹介されている。注釈には未来投資戦略(平成29年6月9日閣議決定)において2025年度までに実現することとしている20拠点の施設は、あと残るは6施設となっており、競争も厳しくなっている。

 選定された施設を見ると、民設・民営で整備され、行政が側面的に支援する事例が流れになっている。2021年の成果物である北山エリア整備手法業務報告書には整備手法がいくつか示されているが、今も学び活動する大学キャンパスの公有地を提供し、ゼネコン等が建設しそれを府が府債を発行し買い取り、指定管理料も払い運営を委託する方式をとるところは少数派だ。現に教育活動で使用されている大学のキャンパスに「多様な世代が集う交流施設」として巨大なアリーナをつくるというアイデアは、誰の発案か疑う。

 北山エリアのアリーナ予定地は、グランド除く府大キャンパス面積74,899㎡のなかに3,509㎡の大学体育館を取り壊し建て替えるが、1万人規模のアリーナを整備する場合、大学グランド、校舎、隣接する植物園のどこかを大きく削らないとスポーツ庁の事例のような事業にはならない。

 スポーツ庁が紹介する事例を見ても、北山エリアのアリーナは異質だ。物理的な条件としての敷地面積、紹介されている事例のように民間が自ら資金調達するような動きもなく、大学の体育館の敷地をあてに170億円もかけて整備する計画は京都府財政にしわ寄せが行く可能性が高いと言わざるを得ない。

 京都府は、全体の整備費がどれぐらい要するのか明らかにしない。シュミレーションや一つの試算でも府民に明らかにし、考えている整備手法も含め示すべきだ。それも示せないのであれば、計画は白紙撤回し出直すべきだ。